青山学院大学文学部英米文学科同窓会

The Alumni Association of the Department of English at Aoyama Gakuin University

第32回青山学院大学同窓祭公開講座開催報告

開催日時:2025年9月23日(火・祝)13:00~14:30
会  場:17306教室(17号館3階)
講  師:井上 健 氏(東京大学名誉教授)

 残暑もひと段落した秋分の日に「アメリカ小説はいかに翻訳されてきたのか」と題した公開講座が50人の熱心な聴衆を集めて開催されました。吉波英米文学科同窓会会長による講師の紹介に続き、井上先生による講座がスタートしました。まず冒頭で「翻訳文学を考える六か条」が説明され、その中でも「文学作品は様々な言語に翻訳され続けることで生き長らえ後熱していく」という考え方に、翻訳が時を経て熟成されて行く息の長い作品なのだと改めて気づかされました。またベルヌ条約(著作権の国際的保護を定めた)の存在を教えて頂き、アメリカが同条約に当時は未加盟で版権取得が不要であったために『武器よさらば』『風と共に去りぬ』『大地』などの名作が時を置かずに翻訳され日本で読めるようになったという非常に興味深い歴史的な経緯が説明され、われわれ日本人が世界中の文学の中でもアメリカ小説に親しみを持つ理由の一端を知ることができました。
 また、私の個人的な話で恐縮ですが、高校生の時に吉祥寺の古本屋で見つけた『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳)の主人公のホールデンの語り口に対する驚きと感動は、未だに鮮明に記憶に残っていますが、それも翻訳者によって微妙に変わっている事例を教えて頂き、久しぶりに原書と翻訳を読み比べてみようかな、と思いました。
 このほかにもエドガー・アラン・ポー、ジャック・ロンドン、マーク・トウェインを始めとする多くの作家とその翻訳の興味深い話の数々が展開され、講演時間はあっという間に過ぎてしまいました。非常に専門的で難しくなりがちな話を、井上先生のユーモラスな口調で分かり易く説明して頂き、大変楽しいひと時を過ごすことができました。ありがとうございました。また是非、今話題になっているパーシバル・エヴェレットの『James』の翻訳などに関してじっくりとお話をして頂ければと思っています。  (記:幹事 篠崎友彦 1978年卒)

   笑顔で語る井上先生

   質疑応答の様子

   講演を終えて 
 秋元顧問 吉波会長 井上先生