第38回公開講演会 「出生率1.15の衝撃」青山学院大学 経済学部長・教授 井上 孝 先生
2025年10月05日
青山学院大学経済学部同窓会・経済学会 共催
第38回公開講演会 報告書
講演タイトル: 「出生率1.15の衝撃」
講師: 青山学院大学 経済学部長・教授 井上 孝 先生
日時: 2025年9月23日(火・祝)13:30~
会場: 青山学院大学 17308教室
1.講師紹介
井上孝先生は、1959年栃木県生まれ。筑波大学第一学群自然学類(数学主専攻)を卒業後、筑波大学大学院博士課程地球科学研究科(地理学・水文学専攻)を修了。博士(理学)。
筑波大学、秋田大学を経て1995年に青山学院大学経済学部助教授、2002年より教授。2024年4月より経済学部長に就任。
また、国立社会保障・人口問題研究所研究評価委員、日本人口学会会長などを歴任され、人口学・地域人口論・統計学・GISを専門とされています。
著書には『日本の人口移動―ライフコースと地域性―』『地域と人口からみる日本の姿』『首都圏の高齢化』『自然災害と人口』など多数。
2.講演概要
講演は、2024年の**合計特殊出生率「1.15」**という衝撃的な数値を起点に、日本の人口減少の現状と将来への課題を科学的データに基づいて解説されました。
井上先生はまず、出生数が前年比5.6%減の68.6万人と、過去最低を更新した現状を示され、2015年以降続く平均減少率(4.2%/年)を上回るペースで少子化が進行していると指摘。
また、少子化対策への財政支出が増しても、出生率の反転上昇が見られない現状に対し、「政策の量的拡充だけではなく、社会構造そのものの見直しが必要」と強調されました。
個人として、以下の3つの視点から各国の取り組みと日本の課題を感じました。
- 男女共同参画と出生率の関係
スウェーデンのように男女平等を推進しても、出生率は依然として低下傾向にある。社会的平等だけでなく、家族観・人生観の変化が影響していると分析。 - 子育て支援制度の限界
フランスでは税制・年金・教育の面で手厚い支援が行われているにもかかわらず、出生率は下降中。制度だけでは出生行動を変えきれない実例として紹介。 - 宗教・価値観と出生率
米国のアーミッシュに見られるように、宗教的価値観を背景に「避妊・中絶を行わない」文化圏では出生率が高い。文明的価値観との関係性が浮き彫りとなった。
井上先生は、これらの国際比較を通して「少子化は経済政策や支援制度のみで解決できる課題ではなく、人々の生き方・家族観・社会の在り方を問う問題」であるとまとめられました。
3.経済学会の活動紹介
講演冒頭では、青山学院大学経済学会の活動について紹介がありました。
経済学会は1949年に設立され、今年で76年を迎えます。教員と学生を会員とし、
- 学術雑誌『青山経済論集』の発行
- 学生対象「懸賞論文」「経済学エッセイコンテスト」の実施
- 公開講演会・セミナー等の開催
を通じて、学術的発展と学生・教員の交流促進に寄与しています。
4.参加者の感想
講演を通じ、「景気対策や経済支援だけでは出生率は上がらない」という現実を改めて実感しました。
北欧・フランスの例に見られるように、制度の充実が必ずしも出生増につながらない一方で、宗教的・文化的背景を持つ地域では高出生率が維持されていることが印象的でした。
少子化問題は単なる経済課題ではなく、「人の生き方」と「社会の価値観」の転換を要する問題であるという先生の指摘が心に残りました。
5.まとめ
本講演は、データに基づいた冷静な分析とともに、社会全体の意識変革を促す示唆に富んだ内容でした。
参加者にとって、日本の人口問題の本質を考える貴重な機会となりました。